

猫の肥大型心筋症について|胸水、肺水腫、動脈血栓塞栓症の治療について解説
2025年07月07日カテゴリ|コラム
猫の肥大型心筋症について|胸水、肺水腫、動脈血栓塞栓症の治療について解説
「愛猫が心臓病になってしまった」
「猫の心臓病の正しい治療方法が知りたい」
こんな悩みを抱えられている猫の飼い主様は多いのではないでしょうか?
猫は動物病院にかかることも少なく、大きな病気であっても見逃され、重症化しがちです。
心臓病のような疾患は、特に重症化した時には治療に難航することが多いです。
今回はこの猫の心臓病の中でも一番多いとされる、肥大型心筋症について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、肥大型心筋症で苦しむ猫の治療にお役立ていただけると幸いです。
猫の肥大型心筋症
肥大型心筋症は猫の心臓病の中で最も一般的なものですね。
猫の肥大型心筋症について理解するためには心臓の働きを理解する必要があります。
心臓の働き
心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋で構成されていて、血液を送り出すポンプの役割をしています。
血液は全身→右心房→右心室→肺→左心房→左心室→全身の順に流れています。
全身の血液が心臓の右側に入って、肺で酸素を取り込んでから心臓の左側に入り、また全身に血液が送られるという流れですね。
健康な心臓であればこの血液の流れは崩れることはありません。
肥大型心筋症とは
肥大型心筋症は、心筋と呼ばれる心臓の筋肉が異常に厚くなることで、心臓の機能が低下する病気です。
特に左心室の心筋が厚くなることで、心臓の内部が狭くなります。
心臓の内部が狭くなると、十分な血液が心臓の中に入ることができず、結果として心臓から送り出す血液が少なくなります。
その結果
- 全身への血液供給が足りなくなる
- 動脈血栓塞栓症を発症する
- 肺水腫や胸水を生じる
などの合併症を発症します。
動脈血栓塞栓症とは
肥大型心筋症では特に左心室の心筋が異常に厚くなります。
そのため、左心室に血液を十分に心臓の中に入れることができなくなります。
左心室に入ることができず行き場をなくした血液は、左心房内にとどまることになり、左心房を外側に押し広げていき、左心房は拡張していきます。
最終的には拡張した左心房内で血液はよどみ、少しずつ固まっていき、血栓を作ってしまいます。
その血栓が心臓から離れ、体の血管に詰まってしまうのが、動脈血栓塞栓症ですね。
動脈血栓塞栓症は体のあらゆる血管に詰まりますが、最も一般的な血栓が詰まる血管は腹大動脈という血管の後ろ足に血管が分かれる分岐部です。
この場所に血栓が詰まることによって、
- 非常に強い痛みが出る
- 後ろ足が冷たくなる
- 後ろ足の麻痺が出る
などの症状を発症します。
最終的には後ろ足の壊死が起こり、カリウムという不整脈の原因となる物質が血液中に増え、発症してまもなく死亡してしまうことも非常に多いです。
肺水腫、胸水とは
肥大型心筋症では適切に心臓から血液を送り出すことができなくなります。
その結果、血液は血管の中で渋滞することになり、水になって血管から染み出します。
そして生じるのが肺水腫や胸水ですね。
肺の中に水が溜まるのが肺水腫で、肺と胸腔の中に水が溜まるのが胸水です。
肺水腫と胸水はどちらにしても、溜まってしまった水が呼吸を邪魔することになり、呼吸困難に陥ってしまいます。
猫の肥大型心筋症の治療
猫の肥大型心筋症の治療には様々なものがあります。
大きく分けて
- 無症状の肥大型心筋症への治療
- 心不全の症状がある肥大型心筋症への治療
に分けられます。
無症状の肥大型心筋症への治療
無症状の肥大型心筋症では進行することで発症する合併症を予防する治療を行います。
- 動脈血栓塞栓症が起こらないようにするために血栓予防薬を服用する
- 心拍数が上昇し血液を送り出せなくなったら心拍数を低下させる薬を服用する
などですね。
無症状の肥大型心筋症には様々な治療方法が考えられていますが、全ての症例で同じ治療をすればいいというわけではありません。
定期的に動物病院で診察を受け、状況に応じて治療を始める必要がありますね。
心不全の症状がある肥大型心筋症への治療
心不全の症状とは胸水や肺水腫のことです。
どちらにしても呼吸困難を発症しているため、すぐに動物病院に連れていく必要があります。
動物病院ではまず酸素を吸入させます。
もし胸水であれば、胸に針をさして水を抜く緊急の処置を行います。
胸水や肺水腫は、心臓から血液を送り出すことができなくなり発症する病気です。
胸水や肺水腫に対しては
- そもそもの血液量を減らし、溜まる水を減らすために利尿剤を飲む
- 心拍数や心臓の力を調節し、正常に血液を送り出すための薬を飲む
などの治療を行います。
こちらも無症状の肥大型心筋症への治療と同様に、全ての症例で同じ治療をすれば良いというわけではありません。
胸水や肺水腫は緊急度の高い状態のため、全ての検査ができないこともありますが、実施された検査や猫の状態から治療を選ぶ必要があります。
まとめ
猫の肥大型心筋症は気づかない間に悪化してしまい、治療が難航してしまいがちな病気です。
症状がないうちから定期的に動物病院で健康診断を受けて、早期に発見することが大事ですね。
当院は猫の循環器診療にも力を入れています。
猫の肥大型心筋症に関するご相談がある方はいつでも当院にご相談ください。
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