犬の僧帽弁閉鎖不全症と利尿剤|命を守る大切な薬
2025年11月07日カテゴリ|コラム
犬の僧帽弁閉鎖不全症と利尿剤|命を守る大切な薬
犬の心臓病の中でもっとも多いのが「僧帽弁閉鎖不全症」です。
僧帽弁閉鎖不全症が進行すると心臓の働きが弱り、肺や体に水分がたまってしまいます。
たまった水分は肺水腫や呼吸困難など危険な状態を引き起こします。
そのような状態を改善するために使われる薬が利尿剤です。
利尿剤は体にたまった余分な水分を外に排出し、呼吸を楽にしてくれます。
しかし、命を守る効果がある一方、服用にあたっては注意も必要な薬です。
この記事では、利尿剤の働きや服用時の注意点などについてわかりやすくご紹介します。
飼い主様が安心して僧帽弁閉鎖不全症の治療に向き合える助けとなれば幸いです。
僧帽弁閉鎖不全症とは?
僧帽弁閉鎖不全症とは、その名のとおり心臓の僧帽弁がきちんと閉じなくなってしまう病気です。
本来、肺から送られてきた血液は左心房から左心室へ流れ、そこから全身へ送り出されます。
僧帽弁の役割は、左心室から左心房への血液の逆流を防ぐ「扉」です。
加齢などの影響で僧帽弁がしっかり閉じなくなると、血液が左心房へ逆流します。
逆流は心臓や肺にとって大きな負担です。
負担がかかった状態が続くと心臓の働きは少しずつ弱まり、やがて余分な水分が体にたまってしまいます。
水分が肺にたまると「肺水腫」と呼ばれ、命に関わる状態になることもあります。
僧帽弁閉鎖不全症は初期のうちは症状が目立ちません。
ただし、進行すると以下のような変化が見られます。
- 咳が増える
- 呼吸が苦しそうになる
- 元気がなくなる
- 食欲が落ちる
利尿剤の働きと種類
利尿剤は、腎臓に作用して体の中にたまった余分な水分を尿として外に出す薬です。
心臓の働きが弱くなると、血液の循環が滞り、体に水分が溜まりやすくなります。
水分が肺や胸にたまると、咳や呼吸困難といった深刻な症状を引き起こす原因となります。
利尿剤は余分な水分を排出して呼吸を楽にし、心臓への負担を和らげる薬です。
まさに「命を守る薬」のひとつです。
利尿剤にはいくつか種類があり、症状の重さや体の状態に応じて使い分けられます。
ループ利尿剤
最もよく使われる利尿剤です。
速やかに強い効果を発揮して余分な水分を排出します。
肺水腫など急を要する症状にも使われることが多いです。
サイアザイド(チアジド)系利尿剤
効果はループ利尿剤より穏やかですが、長く作用するのが特徴です。
ループ利尿剤だけで十分な効果が得られない場合に併用されます。
抗アルドステロン薬
ホルモンの働きを抑えて体に水分や塩分がたまるのを防ぐ薬です。
心臓への負担を減らすほか、腎臓を守る効果も期待できます。
利尿剤服用中の注意点
利尿剤は僧帽弁閉鎖不全症の治療で欠かせないとても大切な薬です。
ただし、服用にあたっては「脱水」に注意する必要があります。
利尿剤は体内の余分な水分を尿として排出するため、尿の量が増えます。
しかし、水分の摂取量よりも排出量が多くなると、体内の水分が不足して「脱水」を起こすおそれがあります。
脱水が進むと血液の流れが悪くなり、腎臓への負担となります。
「水分がたまる病気だから」「尿の量が増えて心配だから」といって飲水を制限することはおすすめできません。
いつでも新鮮なお水が飲めるようにしておくことが、愛犬の体を守る上でとても重要です。
家庭でできる体調チェック
利尿剤の服用中は、定期的なチェックがとても大切です。
動物病院では血液検査や尿検査で体の状態を確認しますが、ご家庭での観察も診断や治療に欠かせない情報になります。
普段の様子をしっかり記録し、診察のときにメモを持参すると、より適切な治療につながります。
ご家庭で観察してほしいポイントは次のとおりです。
- 飲水量:急な増減がないか
- 排尿の回数や量:回数や量の変化がないか
- 体重:週1回測定し、増減がないか
- 安静時の呼吸数:寝ているときに胸の上下を1分間数え、多くなっていないか
- 咳:夜間や明け方に増えていないか
- 元気や食欲:普段の様子と比べて落ちていないか
これらの変化は、病気の進行や利尿剤の効き具合を判断する大切な手がかりです。
飼い主様の観察が、愛犬の命を守る大きな助けになります。
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は、進行すると肺や胸に水がたまり、呼吸困難を引き起こす危険があります。
治療に欠かせないのが利尿剤です。
利尿剤は体にたまった余分な水分を排出し、呼吸を楽にして心臓への負担を減らす「命を守る薬」です。
ただし、利尿剤には脱水とそれに伴う腎臓への負担といったリスクもあります。
脱水を防ぐため、いつでも新鮮な水が飲めるようにしてあげましょう。
定期的な血液検査だけでなく、ご家庭での観察も治療の重要な一部です。
日々の小さな変化を記録することが、病気の進行や薬の効き方を把握する大きな手がかりになります。
毎日の観察と定期検査を続けることが、愛犬の命を守る最も確実な方法です。
少しでも不安や疑問があれば、遠慮なく獣医師に相談してください。
愛犬の健康を守るために、私たちと一緒にできることを考えていきましょう。




